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日記です

(ネタバレだらけ)プロジェクト・ヘイル・メアリーの面白かったところ

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上

プロジェクト・ヘイル・メアリー を読みました。各所で面白いと聞いていたし、同じ著者の 火星の人〔新版〕 上 (ハヤカワ文庫SF) はお気に入りの作品の一つなので、面白いだろうと思っていましたが予想以上でした。

本エントリーではプロジェクト・ヘイル・メアリーだけでなく、他の作品のネタバレも満載でどう私が面白かったのか紹介します。

まず、いきなり全体のネタバレですが、とにかくSF要素が盛りだくさんというのがこの作品の特徴じゃないでしょうか。

本作品のストーリーは、謎の生命体が出現し、太陽の活動が弱くなり(アポカリプスもの)、その謎を探るため睡眠状態で遠くの恒星に行き(宇宙旅行コールドスリープもの)、宇宙人に出会い(ファーストコンタクトもの)、大変な目に遭いながら(パニックもの)、地球を救うというものです。

火星の人では、主人公がジャガイモを育てて生き延び、火星から戻ってくるというシンプルな話だったのと比べると盛りすぎです。

さらにそのあたりは作者も意識しているのか地球外生命だけど無機生物系かも?侵略系か?と揺さぶりをかけてきたりとSFファンの心を意識的にくすぐってくるのを感じました。

思い出してみると導入部分からいきなりサービスもりもりです。主人公が記憶がないまま昏睡状態から目を覚ますところから物語は始まりますが、主人公がいるのは窓のない部屋で、本人以外には実験道具や仲間と思われる死体が2体という状態でうす。部屋につけられたAIのようなものに「あなたの名前は?」と聞かれ、名前がわからないと行けない部屋があります。

ここで、読者は宇宙空間にいることはわかっているのですが、主人公はわかっていません。主人公は自分が何者かはわからないまま、移動できる範囲で探索し、不自然な物の落下スピードに気がつき、宇宙空間にいる可能性を考え、初歩的な物理実験の組み合わせで、どうやら自分が普通の重力の場所にいないということに気がつきます。

どうでしょうか?非常に回りくどいです。窓から外見ろや!って思います。しかし、この一連の流れで主人公のバックグラウンドや性格などが自然にこちらに伝わってくるし、振り子の実験で語られる「回転体の中にいるなら回転の中心と外側では重力が変わる」という物理法則はその後の展開でもでてきます。

話は少しそれますが、この作者は一つのエピソードから、一石二鳥、一石三鳥するというのが非常にうまいなと思います。この後もこの作品だけの創造物や宇宙人の未知の技術などもでてくるのですが、どれも単発で出てくるということがありません。

例えば厄災の原因となった太陽光を食べてしまうアストロファージという恐ろしい生き物も、エネルギー源として使いますし、宇宙人の技術であるキセノナイトという超強力な金属も単に便利なわけではなく、(なんかしつこくキセノナイトの話が出てくるなと思っていると)最後はそれが弱点となってキセノナイトに頼っている宇宙人にだけ災害が起こることになります。

また、ちょっとした話も徹底的に単発で出してくることを避けているようで、例えば「宇宙人が相対性理論を知らない」ということを、宇宙人が「なぜかうちは燃料が余ってるからあげるよ」(時間の遅れを計算に入れていなかった)と言い出したことから主人公が気がつくところが凄くて、これにより片道旅行のはずだった主人公は燃料補給ができて帰れる可能性が出てくるのですが、私には「主人公は生きて帰れるのか?!」というこの物語の大きな軸と「宇宙人の星はこういう条件で、こう進化してきたから宇宙に出る技術があるのに相対性理論を知らなかった」という理詰めの設定のどちらから考えていったら、今回のような不自然じゃない形で融合させられるのか想像もつきません。

単発で出てきたもので覚えてるとするとモルヒネでしょうか。同じクルーの持ち込み品のウォッカは飲まれたのに、モルヒネは使われませんでした。

さて、かなり話がずれましたがそんな感じで序盤は謎解きを兼ねて、主人公のパーソナリティがスムーズに展開されました。しかしうまいのは主人公は記憶があやふやだということです。こちらとしては主人公がまだ思い出していないことがあるのはもちろん、もしかしたら嘘をついていたり、誤った記憶を話しているだけかも?もしかしたら2人を殺したのはこいつかも?と疑念を抱かずにはいられません。そういった緊張感もよかったです。

私が序盤でワクワクしたのは太陽のエネルギーを奪うアストロファージの設定です。太陽を奪われるというとそのままの題名の「太陽の簒奪者」を連想しました。太陽の簒奪者は宇宙人が太陽をすっぽりと覆う(ダイソン球)機構で太陽エネルギーを全て奪おうとやってくるという話です。単に奪いにくるだけなら普通の話ですが、その宇宙人は進化しすぎてて人間程度の知性を知性と認識してなかったというのが痛快な作品です。また、「われらはレギオン1 AI探査機集合体 (ハヤカワ文庫SF)」でもダイソン球はでてきました。恒星を丸々飲み込んでしまうようなスケールの大きさはSF作品ならではの魅力です。

また、アストロファージが無機生物やコンタクト不可能な生き物かもというのも面白いポイントでした。それでいうと「戦闘妖精・雪風〈改〉〔愛蔵版〕」や「老ヴォールの惑星」や「ソラリス (ハヤカワ文庫SF)」なんかを思い出します。無機生物が出てくると無機生物は有機生物をどう理解するのか、どうコンタクトするのかなどこれまたSF作品ならではの楽しさが増えます。

序盤以降で次に楽しかったのはやはり、ロッキー(宇宙人)とのファーストコンタクトですね。三体を読んだ人の多くが「え、自分の星の場所を教えちゃダメでしょ」と思いませんでしたでしょうか。

三体では黒暗森林理論というものがあり、宇宙では敵を見つけ次第、文明が発展する前に全滅させるというのが当たり前になっていて星の場所を知られるというのは絶対に避けなければならないこととなっており、実際に地球も場所がバレることになって即座に太陽系ごと3次元から2次元に落とされて平面化されるという数あるSF作品の中でもとんでもない攻撃を受けることになってしまいました。

ファーストコンタクトもので最初にどう意思疎通するかというのはSF作家の腕の見せ所で寿司ならマグロ、ピザならマルゲリータといった感じでシンプルながら非常に難しい所です。私の好きなファーストコンタクトものだと「コンタクト (字幕版)」(小説は絶版?)や「あなたの人生の物語」があります。コンタクトの方では、私の記憶が曖昧ですが、まずは数字のやり取りをした後、穴埋め形式の数式を送りあって記号の意味を知って・・・という感じでした。本作品では模型を使ったり、原子の性質や時計をつかったりして徐々に交流をしていきました。

あとはどこも面白かったですが、全体的に軽いノリのおかげで、まあハッピーエンドになるんだろうという雰囲気で最初から最後まで良かったですね。だるい所がないのも良かったです。(いちゃついてる若者は死ぬという展開がありましたが、あれはいわゆる非モテへのサービス演出でしょうか?)

唯一気になったのは主人公が無理矢理船に乗せられていたということでしょうか。「結局は自分の意志で乗りました」みたいなのが後からあるのかと思いきやそうではなかったですね。

結末も良かったです。主人公もハッピーになってほしいですが、それよりロッキー(脳内ではタチコマの声で再生)が故郷で主人公と一緒に幸せになってくれた方がなんかよかったのかもしれないです。

とにかく面白かった。おすすめです。